「自衛隊明記」改憲のはらむ問題点

 自衛隊を憲法9条に明記することには、どんな問題点があるんでしょうか?
 簡単にいえば、いろいろと変わっちゃう!ってことです。その理由と、具体例をご紹介します!

 まずは、いろいろ変わっちゃう!といえる理由です。

後法は前法を破る!

 法律の世界には「後法は前法を破る」というルールがあります。過去に作った法律と矛盾する内容の新しい法律ができた場合、新しい法律が優先して、これまであった法律のうち矛盾する部分は無効になる(死文化する)、というルールです。
 そりゃ当たり前ですよね、過去に作った法律があることを知ってて「あえて」矛盾する内容の法律を作ったのですから。新しく法律を作ったときに、今まであった法律の「ここ矛盾することになっちゃうよ」という部分については、(明示的に法律改正をしてはいないけど)「もう効力を持たせない」という判断をした、といえるからです。
 となると、「武力の行使ができる」自衛隊を明記するということは、それに反する憲法の内容を否定する(死文化する)ことを意味します。
 「一切の戦争を放棄する」「武力の威嚇を行わない」「戦力を保持しない」など、いまの憲法9条の内容が、死文化してしまう可能性があるのです。少なくとも、政治家さんが「後法は前法を破るんだから、憲法上、武力行使だって出来るんだ!」という言いやすくなるでしょう。

権力抑制の観点が無い

 憲法は、国の権力機関を(立法・行政・司法に)分立し、相互に監視・監督させることで、どれが一つの権力機関が強大になったり暴走したりすることを防ぐようにしています。
 例えば、国会(立法府)は、行政のトップである内閣総理大臣を選ぶ権限が憲法で認められていますし、内閣(行政府)は衆議院を解散する権限が憲法上認められてます。裁判所は国会の作った法律を憲法に照らして審査して無効だと判断する権限が憲法で与えられています。
 このように、国会・内閣・裁判所は、それぞれお互いを監視し合うことで、暴走を防ぐことが求められているのです。
 ところが、憲法9条に「自衛隊」を置くというだけの憲法改正の場合、この自衛隊をしばる(統制する)ことは憲法上できません。なぜなら、憲法上、自衛隊をしばるための権限がどの機関にも認められていないからです。これでは、自衛隊の活動を憲法上止めることが出来ないことになってしまいかねません。
 少なくとも、政治家さんが、「憲法に書いていないんだから、憲法上、ほかの機関が自衛隊の行動を止めるのは憲法違反だ!」と言いやすくなるでしょう。

人権を制限することが可能になること

 憲法は、市民の自由・人権を守ることが目的ですので、市民の自由・人権を制限するためには、憲法上の理由(憲法に明記されている利益)が必要です。例えば、ある人の人権を制限するには、ほかの人の人権(憲法に明記されている利益)が理由になることが多いのです。
 現在、憲法には、「国防」「自衛隊」という概念はありません。なので今まで「国防」を理由に人権を制限することは、基本的には、出来ませんでした。(現実には、人権を制限されることがなかったわけではありませんが、少なくとも、人権を制限された市民は、国防や自衛隊を理由に人権制限するのは憲法違反だと裁判所に訴え出ることができました)
 ところが、「国防のための自衛隊」が憲法に書かれることで、「国防」や「自衛隊」というのが憲法上の理由(利益)になるため、「国防」や「自衛隊」を理由とする人権制限が可能になってしまう可能性が大いにあります。
 たとえば、「国防のために必要なので、あなたの土地や財産を使わせてもらいます。」、「国防のために必要なので、あなたにはこれこれの仕事を命じます。」などがありうるでしょう。もちろん、国防上必要だから、という理由でのメディア規制・情報統制もありえます。

自衛隊のための予算がより拡大する可能性があること

 日本の予算には限りがあります。長引く不景気などのため、日本の予算は赤字が続いています。そのため、生活保護や医療介護などの社会保障が年々貧弱になっているのは、多くの方がご存じだと思います。
 生活保護や医療介護だけではありません。高齢者向けの年金、働く人の失業給付、高校や大学の教育費など、国がお金を出すべき分野というのは、多岐にわたります。道路や公園の整備や、図書館や体育館の整備、公務員の拡充など、税金でやってほしいことはたくさんあります。
 でも、自衛隊が憲法上の要請になると、「国防のためにお金が必要です」、「自衛隊のためにお金を使いましょう」という場面がますます増える可能性があります。なにせ、「国防」や「自衛隊」は憲法上必要な存在ですので、危機だと言って最優先でお金を使うことになるかもしれません。そうなると、社会保障に回してもらえるお金が減ることはあっても、増えることはないでしょう。少なくとも、政治家さんが「自衛隊にお金を回すので社会保障は自己負担でお願いします」といいやすくなるでしょうね。
 このように、憲法に「自衛隊」あるいは「国防のための自衛隊」を書き込むだけで、いろんなことが変わります。
 日本が集団的自衛権を行使できるようになる、ということもありうるでしょう。自衛隊がアメリカの戦争に巻き込まれるという可能性だって否定できません。
 ポイントは、国民の皆さんが信頼をおく、なじみのある自衛隊は、2015年9月に大きく変貌をとげてしまっている、ということです。「専守防衛で今まで1回も銃を放っていない、途上国の選挙協力や給水、あるいは被災地での救助活動で活躍する自衛隊」は、安保法制の成立により、「日本と関係のない戦争にも米軍と一体となって参加する」武力組織へと変わってしまいました。その自衛隊を憲法に書き込む、ということは…

 いろんなことが変わっちゃう可能性があるのです。

 何も変わらない? そんなことはありません。
 変えた以上、何かが変わったに違いない、と考えるのが法律解釈の当然の発想です。
 何が変わったと言えるのか(言われちゃうのか)、いろいろと考えてみてくださいね!